大企業の不正行為の原因は大企業だから

自動車業界の話です。個別企業の不正行為ではなく、経済学の視点から見た一般論として述べます。

2017年あたりからでしょうか、日産、スズキ、スバル、VW、日野、ダイハツ、トヨタ・・・・自動車大企業での無資格検査、燃費測定不正が多発しています。

これらの企業はグローバルに事業展開している大企業です。グローバル化に伴い、各社は各国の排ガス規制、燃費規制に適応すべく、様々な技術開発を進めてきました。エンジンの噴射ノズルの設計変更、排ガス流路の最適化、排ガス触媒の貴金属量の最適化、エンジン構造の断熱化・・・・、おそらく30種類以上の研究開発が進められてきたと思います。一般にこうした研究成果を自動車に実装するにはコストアップを伴いますので、できるだけ多くの車種、地域で適用できるよう部品の共通化が図られます。部品の共通化はいわゆる量産効果が出るのでコストダウンになります。しかし、万一の不具合の際には、適用車種、適用地域が多ければ多いほどリコールや無償修理費用はダルマ式に増加してしまいますので、各社はかなり慎重に開発・量産化を進めます。
このころの自動車会社では、エンジン開発を部品共通化の名の下で、多くの開発者を投入して、これまでよりも長期にわたって慎重に量産化を進めてきました。その結果、研究開発費が何十億円、何百億円にも膨れ上がり、経済学で言うサンクコストが従来の2倍3倍に膨れ上がっていたのです。

もう一つの視点はコストダウンのバイアス効果です。先に挙げた企業はどれもグローバル企業です。車種拡大や地域拡大を受けて、効率的な車両開発や量産化が求められます。効率化の目的はコストダウンです。部品の共通化、開発プロセスや量産プロセス、工場生産なども共通化が求められます。効率化の取組みの結果として、グローバル化が実現できた、とした方が適切な表現と思います。こうした業務の効率化を多面的に推進する中で、各国の排ガス規制や燃費規制がますます厳しくなっていきました。欧州の例ですが、2014年にEuro6、2021年以降にEuro7(延期中)が設定され、それを追うように米国、中国、日本の規制も厳しくなっていきます。規制強化は車両開発においては基本的にはコストアップです。新しい技術開発やその量産において部品の追加や高級素材への変更が余儀なくされます。しかし、規制が厳しいからと言ってコストアップを認めることは容易ではありません。グローバル化で部品共通化を図り、その結果としてコストダウンが実現し、企業の利益拡大に貢献してきた技術者や管理職にとって、規制強化とはいえコストアップを正直に申請する者はいません。もちろん、部品構造や設計、材料の見直しを通じて、考えられうる原価低減を図るものの、コストアップは認められないという風潮が存在するであろうことは、他業界ですが組織文化論の中でも明らかにされています。このようにグローバル化を通じて経験したコストダウンの成功体験はバイアスとなって厳しい排ガス規制、燃費規制の中でも、容易に意識変更できない状況を作り出してしまうのです。

最後に、巨大した組織の影響です。組織の成長モデルにはさまざまあり、成長に伴う課題が指摘されています。セクショナリズムや部分最適、管理スパンの適正化問題など、いわゆる大企業病です。大きなピラミッドの中で、自分がどのルートでどうやって頂上目指して昇り詰めていくのか、それだけが出世の重要課題になっていきます。上司に気に入られるために仕事で成果を出す。いい情報のみ報告し、悪い情報は報告しない。部下の成果は自分の成果、悪い結果は部下の責任。本来、このような価値観はごく少数の人間しか持ち合わせていません。しかし、組織が大きくなればなるほど、この間違った価値観が複数発生し、それが実際に出世につながるケースが出てくると、組織全体がこの間違った価値観が正しいものとして受け入れられ広がっていきます。良い結果だけを報告したい、だからデータを改ざんする。残業時間が限られているので上司に叱られないように、検査を実施したことにしておく。大企業になればなるほど、こうした状況が発生する可能性は高まります。

以上のように、大企業がグローバル化し、効率を求めるばかりに、サンクコストが増大し、コストダウン以外は受け入れない仕事の進め方を前提とし、さらに大企業病による成果主義が、排ガス規制や燃費規制の不正検査、データ改ざんにつながりうる状況を説明いたしました。

企業が成長するにつれて、組織自体が変容していきます。これは仕方のないことですが、従業員の不正行為をどのように未然防止していくのか、非常に悩ましい問題です。性悪説のマネジメントを推奨するつもりはありませんが、従業員が正しい価値観を維持できるよう、組織コミュニケーションのあり方、人事評価の在り方、異業種交流を進めるなど、経営者は今一度、人材を人財にする自己の努力を見直していただきたいものです。

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