中小製造業を診断する際の留意点②

前回に続いて第2弾です。前回は事業リスクが増大している中で、中小製造業の経営者は何を判断すべきか、について述べました。今回は、なかなか実現しない「値上げ」について考えたいと思います。

2.値上げ交渉のタイミングはいつ??
 国内製造業は、完成品メーカーを頂点として1次下請け、2次下請け、3次下請け・・・と広がるピラミッド構造を有しています。もちろん、市場上の完成品メーカーの発言力は強く、下に行くほど発言力は弱くなっていきます。
 完成車メーカーの製品価格はどのように決まり、1次下請けの販売価格はどのように決まるのでしょうか。私は自動車産業のことを念頭に述べますが、おそらく家電製品や他の工業製品も同じような法則で価格が決められていると思います。
 まず、完成品メーカーは競合他社や自社の類似品などの価格をもとに、消費者へ販売する価格を決めます。そして、自社が獲得する利益を決めたのち、製造原価を決めていきます。考え方としては、「販売価格-利益=製造原価」です。こうすれば完成車メーカーは販売数量のみを管理すれば、必ず目標とする利益が得られることになり、安心して広告費や人件費を予定通りに消費できることができるのです。
 続いて、1次下請けでは完成品メーカーに指示された価格で販売することが求められ、一定の利益を得るためには自社での製造原価が自動的に決まります(完成品メーカーと同様)。2次下請け、3次下請けでも同様に、自社の利益を確保したうえで、製造原価が決まってくるのです。
 このような製造原価の決まり方を「原価企画」と言って、決定した販売価格と利益から導き出される製造原価を達成するために、部品Aの原価はいくら、部品Bの原価はいくらと細分化して割当て、それを企画としてまとめて実現していく計画を作るのです。
 この原価企画のメリットは先ほど述べたように、販売数量のみを管理することで計画した利益が確保できる点です。もし、製造原価が成り行きの積み上げ方式を採用した場合、利益は様々な活動の結果になってしまい、利益額の大小を予測することが困難で、最終赤字になる可能性も少なくありません。
 こうして販売価格-利益=製造原価の考え方で、下請メーカーの販売価格が決まるのです。そしていったん生産が始まると、完成車メーカーも1次下請けも予定通りの販売価格、利益、製造原価を維持することが必須となり、下請企業が「値上げ」を交渉する余地はほとんどなくなります。
 では、下請企業にとって価格交渉は永遠にできないのでしょうか?
いえいえ、そんなことはありません。それは、「商品のモデルチェンジのタイミング」です。モデルチェンジでは完成品メーカーも1次下請けもそれぞれ販売価格や利益を試算し始めますので、そのタイミングでなら彼らの製造原価の調整が可能になります。そのタイミングを逃すと、値上げはほとんど無理です。

 中小製造業の経営者の皆さま、値上げ交渉のタイミングは商品のモデルチェンジです。顧客とのコミュニケーションを大切にして、モデルチェンジの情報を入手し、うまく値上げ交渉を進めてくださいね。

それではまた。。。